鋼には、焼きが入らないためには炭素が必要不可欠です。硬度は増す一方で、耐食性は劣化し、もろくなります。炭素は焼きを入りやすくする役割を果たす要素であり、これに加えてケイ素(Si)、マンガン(Mn)、リン(P)、硫黄(S)が炭素の効果を補助します。ただし、硫黄は包丁にとって有害な元素であり、温度変化により鋼をもろくする傾向があります。
一方で、クロム(Cr)は空気と反応して酸化膜を作り、サビを出にくくする効果があります。また、温度変化による銅の劣化を防ぎ、耐食性を向上させる役割も果たします。モリブデン(Mo)はクロムの欠点を緩和し、ステンレス刃物によく使用されます。タングステン(W)やバナジウム(V)は焼き戻し時の鋼の軟化を防ぎ、粘りを出して強度を向上させます。
一般的に、クロムは鋼の中で12%以上、モリブデンとバナジウムは1%以上含まれていなければ、上記のような特性が発揮されません。ただし、実際の包丁にどの元素が何パーセント含まれているかは厳密にはわかりません。それは鋼材の仕入れ先に依存し、製品の表示にはモリブデン鋼やバナジウム鋼といった表記がされていますが、実際にはさまざまな元素が含まれていることがあります。